191021動く大地

142行から

マフィアは吹き荒れるグローバライゼーションとシチリアの大地を糧に生きる人々との間に誕生した中間搾取のネットワークである。
グローバライゼーションの歴史が、シチリア内部にいびつなシステムを作り上げたのだ。
シチリアには大土地所有制が根強く残っていた。
その所有者でる貴族たちは、パレルモなどのシチリア内部の北海岸沿いの先進地か、あるいはナポリといった遠隔地に住んでいた。
彼ら不在地主の代わりに土地を管理する職掌が一九世紀頃に生まれた。
ガベロットたちである。
彼らは多くの小作農に、不在地主の土地を又貸しし、その出来高を搾取した。
実際の土地支配は彼らの手中だ。
彼らは私兵を編成し、縁故者を農場管理者に加え、弱体化した地主から土地をしだいに譲り受け、さらに高額な地代を小作農たちに課した。
このガベロットたちが、今日までシチリアに潜在するマフィア・ネットワークの起源となったのだった。(2)

マフィアを特定の実体とすると誤解する。
それは社会活動に寄生する中間搾取のネットワークである。
そのもくろみは、経済原理を貫徹しようとするグローバライゼーションの動きに対して反理念的な流動性をもった。
たとえば第二次世界大戦中のファシズムの台頭によって根絶やしにされつつあったマフィアは、アメリカのイタリア攻略のための影の組織として貢献した。
シチリアはその貧しさからアメリカへの移民が多かった。
アメリカは彼らが作り上げた暗黒組織に協力を求めたのだった。
その後、独立運動に加担するかと思えば、その結果成長した小作農を中心とした共産主義者には血の報復を行った。
大きな嵐の動きを見極めつつ、シチリア内部にあって彼らは自らの利益を決して失うことがないようにふるまったのである。

老人によれば、土地の政治家たちのはからいでポッジョレアーレの地主たちの所有地の多い谷間に再建地が計画されたという。
すべての人々の賛同は得ていないままの移転だったとのことだった。
もちろん老人の発言は賛同しなかった側からの意見だろう。
彼らは現在、新しい集落に住んでいるが、すでに街としては瀕死の状態だという。

彼らに別れを告げ、新集落(Poggioreale,37°45’55.9″N,13°02’15.3″E)を訪れた。
住宅街に人通りはなく、多くの家のガレージのシャッターが閉じられていた。
水を手に入れようにも開いている店がなかなか見つからなかった。
売店探しに街区を車で流していると、住宅街の先に新しい広場が設けられていた。
有名なミラノ工業大学の建築学部学長の設計によるものて(3)、竣工まもない頃の鮮やかな姿を当時の建築雑誌で見かけたことを思い出した。
当時、最先端であったろうローマ様式を採用したポストモダンの広場は、まったくの無人だった。
新しい村は村落計画に移動手段としての自動車を積極的に採り入れたようだ。
これによって村の外れに作られた広場は、歩いて辿り着くことがなかなか困難な位置になってしまったのだ。

建築家の卵であったセレナは、広場の管理人を見つけ出し疑問を投げつけている。
管理人は説明し続けた。
……わたしたちのルーツは丘の中腹の廃墟にある……しかし同時にこの新しい街も「好きになる必要」がある……この新しい広場は驚異的なデザインで、多くの観光客がこの広場を見るために訪れる。
……ただし立地は明らかに間違っている。
村民は年に数回のフェスティバルの時にここに集まるだけだ……それぞれの家は昔より大きくなり、皆が家の中で生活を楽しむようになった……この住宅街は将来一万人の人口になることを見越して建てられたが、現在の人口はおよそその一〇分の一(4)。
……多くの若者がオーストラリアなど外国に移住してしまった……
今のポッジョレアーレはワイン、オリーブ、メロンの生産で繁栄している……しかしこの代替地はすでに地滑りが発生している……。

正直そうな管理人のはっきりとしない証言の連続にセレナがいちいち苛立っているのが、広場を囲むコロネード(柱廊)から見えた。